materie(マテリエ) 絵を描く材料と額縁の店
京都の画材屋 画箋堂

No.001 円形パネルキャンバス

その名も「エンパネ」

画箋堂オリジナル画材


エンパネってなに?

「エンパネ」は画箋堂が設計・製造〜販売までを手掛ける円形パネル&キャンバスのオリジナル商品です。円形パネル&キャンバスは最近では展覧会やネット上での露出も増えて来ましたが「いったいどこでどうやって手に入れたら良いの?どこ製のが良いの?」など、まだまだベールに包まれた部分の多い商品という印象があります。

ズバリ!!!

手前味噌ではありますが、現状では画箋堂のエンパネで間違いないと言い切れます。円の形をしたパネルやキャンバス…たしかに他社製の商品もすこし見かけるようになってきました。でも「設計における細かな工夫」「商品としての仕上がりの美しさ」「安定した供給体制」「品質と価格」など、すべての面において絵描きの皆さんに自信を持ってお届けできます。なんせ基底材(パネルやキャンバスなど、絵を描くための面を構成する物質)と展示空間の関係までこだわって作ってるくらいですから!

完成した姿を先に見てしまえば「なんの変哲もないキレイな円のパネルとキャンバス」に見えてしまうかもしれません。しかし「そこにはゼロから作りあげてきた者のみぞ知るストーリーがある」「自分たちで作っているからこそ話せることがある」ということで、G-LAB第一弾の記事では、このエンパネを取り上げることにしました。

さてさて、前置きはこんなところにしてさっそく今回のプロジェクトメンバーをご紹介しましょう。
まずは発案からパネルの設計などを手がけたエンパネの産みの親とも呼べる家原 恵太さん(画箋堂 外商部)、そしてキャンバス張りの工程開発や製造を担当している渡邊 駿祐さん(画箋堂 額縁コーナースタッフ)。今回のG-LABは2人へのインタビュー形式でお届けします。

家原 恵太Iehara Keita

外商部所属・WEBコンテンツ「画材図録」・SNS担当・京都精華大学出身。
美術作家としても活動中。趣味はゲーム・歌・音楽鑑賞など。
冬は苦手で夏は元気が出るタイプ(暑いのは勘弁)

渡邊 駿祐Watanabe Shunsuke

額縁部所属。成安造形大学出身。
イラストをちょこちょこ描きながら趣味で空手をやっている。
インドア人間。座右の銘は「成るように成る」で生きている。


何がきっかけで
エンパネを作ろうと思ったんですか?

家原

以前から画箋堂の店舗には、お客様から「円形のパネルって置いてない?」という問い合わせは、実はちょこちょこ来ていたんです。私は展覧会を見に行くことも多いのですが、たしかに最近だんだんと円形のパネルやキャンバスに絵が描かれているのを見かける機会が多くなってきているように感じていました。

なぜ円形の絵が
増えてきているのでしょう?

家原

他にも正方形の絵も増えてきてる気がしていて、自分なりにその理由を考えてみたりもしたんです。以前は号数に基づいて決まった比率に沿って絵が描かれていて、主な道具も筆・絵具・パネル・キャンバスといった定番のアイテムが多かった。でもそこに、パソコンやモバイル端末などのデジタル機器が登場するようになってきて、なんなら展覧会にみなさんが辿り着く手前で一番気軽に作品が見れるのはSNSだったりします。

もちろん以前からオーダーメイドのパネル・キャンバスに絵を描いている方もいらっしゃること、作品の見方だって今も変わらず実物を見に展覧会に足を運んでみることが大切、ということは充分に理解していますし、そうあって欲しいという願いも持っています。ただ新しく登場したそれらのデバイスやコンテンツサービスが、インスピレーションに少なくはない影響を与えているのも事実だと思います。あくまで個人の推測ではあるのですが。

なるほど…深い…
これまでは皆さんどのようにして円形のパネル・キャンバスを手に入れていたんでしょうか?

家原

特に決まった方法はなく作家さんは各々で何とかして手に入れていたみたいです。メーカーさんに聞いてみても、オーダーメイドという形で作ることはあるけど、ロットや納期の問題があってなかなか製品化できず別注で対応しているといった感じ、つまり簡単には手に入らない。それなら安定した価格でみんなが気軽に買えるようにできないか、作っているところがないのなら自分たちで作ってみようか、というのがエンパネの開発のきっかけでした。

キャンバスを貼る前のパネル。
自作のガイドを使って切り出す。

エンパネ開発のスタートは何から着手して始まったのですか?

家原

そうですね、、、まずはパネルの木材加工からでした。この部分に関しては、使う木材も概ね見当の通りでしたし、作業も木工所にお願いする形だったので、ひとまずのところまでは割とスムーズに形になりました。後でキャンバスを張ることを計算してパネルに充分な厚みが出せること、品質を一定に保ちやすくできること、可能な限り価格が抑えられること。これらを考慮して無垢材ではなく合板を使って作ろうという風に。

渡邊

ただ、パネルが出来上がってから「キャンバスをどう張るか?」という段階で、パネル自体に修正や工夫をしなければならないことが出てきました。例えば、はじめは下地材を塗っていたのですが、そうするとキャンバスを張ったときに側面にたるみというか重なりができてしまって、キレイな仕上がりにならなかったんです。そこで、下地材は塗らないという方向にシフトしました。必要に応じて自分で好きな下地材は塗ってもらおう、そうすることで全体のコストを抑えて、キレイな仕上がりで安定した品質の商品を届けることができると判断したのです。

家原

そうなんです、その方がジェッソや膠(にかわ)などジャンルに併せた下地材を塗って使ってもらえるので、商品自体の自由度も上がるのではないかと考えました。

渡邊さんによる製造の様子。
作業工程は無駄がなく洗練されている。

開発にあたって難題だったことってなんですか?

家原

やはり、円形のパネルにキャンバスを張るところですね。特に側面をキレイにすることにはかなりこだわりを持っています。今でこそ動画で見ていただいたように切り込みを入れていますが、一番はじめは切り込みを入れずに、とにかく引っ張って寄せて留めてというところからスタートしていたくらいですから。

なんだか…
餃子の皮のような感じですね(笑

家原

正面から見るとみると私にはイソギンチャクに見えましたよ。(笑
何度か試しているうちに切り込みを入れてなくても、まずまずキレイな側面で仕上げられるようにはなったのですが、そうなる途中段階で何度か美大の先生に見せに行ってみました。
そこで「こりゃ、ダメだなぁ」なんていう正直なご意見もいただいたりしながら。(笑

では、切り込みはどの段階から入るようになったのですか?

家原

ひとまず切り込みの無い状態でも、求めている品質にはそこそこ近づいては来たのですが実際の商品にするには、より品質を上げつつ効率良く作っていくための研究をする必要がありました。その時期から、こうした作業に長けている渡邊さんと一緒になって作業をするようになりました。

渡邊

切り込みを入れるという発想は幸い早いタイミングで出ていましたが、どのくらいの切り込み幅が良いのか、どのくらいのテンションを掛ければキレイに張れるのか、早く正確に仕上げるにはどうすれば良いかなどわからないことだらけだったので、何度も試しながら少しづつ求めていた品質に近づいていきました。

なぜ側面のキレイさにこだわって開発を進めたんですか?

家原

最近では展覧会の時に額装をすることが減ってきているように思います。本音を言うと、展覧会の時であっても額装をしてくれたら嬉しいですのが、、、そんなこともあって、支持体の側面がタブついていると展示空間に対しての絵画の際立ちのようなものが鈍くなってしまいます。特に円形のパネルは展示空間にあると作家の世界観を覗き込むことができる窓のような存在感があります。ですので支持体の品質で本来の魅力が損なわれることが無いように、絵を充分に楽しんでもらうために側面の仕上がりには徹底してこだわっています。

キャンバスの側面。
側面がキレイに仕上がることを特に大切にしている。

実際に作っていくうえでのポイントはどこでしょうか?

渡邊

まずは、木の目とキャンバスの目の方向を合わせるようにしています。作業中に必ず何度か確認して作るようにしています。目が揃っていると絵を描く時、スムーズに描くことができるからですが、これは四角いパネルにキャンバスを張る時と同じ、基本的なことを大切にしています。

側面の仕上がりへのこだわりについては先ほどの話した通りですが、もちろん表面の仕上がりにも強いこだわりを持って作業をしています。何といっても作家が絵を描く部分ですし、支持体の善し悪しを決める最も大事な部分ですから、絶対に歪みが出ないようキレイに仕上げたい。そのためにはコツがあって、まず円の半分はあまり強くテンションを掛けずに留めるようにして、残りの半分を止める時にしっかり均等にテンションが掛かるようにしています。これも四角いキャンバスと同じで、やはり基本的なことを大切にしています。

家原

均等ではなく、一部テンションが掛かりすぎているとキャンバスの布目がグニョっと歪んでしまって、それはやっぱり描くものにも影響してしまいますし、描き手にとってはストレスですからね。

渡邊

他には、より効率良く作業をするために、キャンバス地を切り出したり、パネルとキャンバス地がきちんと中央に来るようにするための、さまざまなガイドをあらかじめ用意しておくこと、作業をリズミカルに行うことなどですね。エンパネのキャンバスを張るのに大体 1 個 30分程度を目安にしています。

パネルの裏面の内側がくぼんでいますね。これにも工夫が?

渡邊

これは絵を壁にかける時に留具への掛かりが良くなるようにしています。
最初は垂直でしたが、くぼみをつけると安定することがわかって改良を加えました。壁に適切な留具を2点設置して留めればOKです。

キャンバスの裏面。
切り込みの幅やくぼみなど工夫を凝らしている。

最後に…
エンパネを使ってみたい!
という方へメッセージを。

家原

先ほども少し触れましたが、円形のパネル・キャンバスは展示空間にあると、まるで作家の世界観を覗き込むことができる窓のような存在感があります。その魅力を損なう支持体の品質によって損なうことなく充分に楽しんでいただけるよう、商品の開発〜製造に至るまで工夫を凝らしてお届けしています。

私たちが求めていた「気軽に手が届く価格であること」「安定した品質を届けること」にも成果を上げていますので、ぜひ一度手にしてください。そして、できることなら額装についても私たちに相談してください。エンパネを自分たちで作っているからこそ、最も良いご提案ができると思いますから。


  • G-LAB No:001円形パネル&キャンバス、
    その名も「エンパネ」。
    画箋堂オリジナル商品
  • 取材場所:有限会社 画箋堂
  • 取材協力:家原 恵太 / 渡邊 駿祐
  • 聞き手:今はまだ秘密