materie(マテリエ) 絵を描く材料と額縁の店
京都の画材屋 画箋堂

No.003 アートの余白が香りをまとい生まれ変わる

artme(アトメ)

画箋堂オリジナルグッズ


マットのアロマディフューザー。

artmeはマットを使ったアロマディフューザーです。と、これだけ言ってもなんのことかまったくわからないと思います。アロマディフューザーは想像できる通り、アロマオイルを室内に拡散するためのアイテム。その中でもボトルに木の棒を挿して使うタイプのものをリードディフューザーといいます。さらに…artmeは、木の棒ではなくマットをボトルに挿す、世界にひとつしかないプロダクト。まったく新しい商品です。と、いってもまだなんのことかさっぱり…という方がほとんどでしょう。ということでG-LAB 第三弾 artmeでは「マット」の端材と向き合いながらどんな可能性にたどり着いたのか、そんな話を始めてみましょう。

そもそもマットって何?

マットを改めてフルネームで呼ぶとしたら「額装マット紙」。絵画や写真を保存・保管するために使う厚み2mm程度の台紙です。額縁と作品の間に使用し余白を埋めることで、ガラス面と作品が接触することを防ぎ、作品の保存性を高める役割があります。絵画や写真を固定するために1枚、その上に作品のサイズに合わせた窓を開けて加工したものを1枚被せて使います。その状態のまま額から外して保管しておくこともでき、経年劣化や額装時・保管時のダメージから作品を守ることができます。

紙は経年劣化すると、どうしても酸性によってしまいます。例えば古い新聞紙をそのままにしておくと、どんどん茶色くなっていくのをイメージしてもらえるとわかりやすいと思います。なので長期間の保存を目的としたマットには、品質の安定した中性紙が使われています。そのため、他の紙に比べて、じつはちょっと高価だったりします。


なぜマットでリードを作ることしたのか?

そんなマットですが、必要な大きさにカットしたり、窓の部分を開けるためにカットした後の端材がけっこう…いや、かなり出ます。使えるところはなんとか再利用してきましたが、それでもたくさん廃棄が出ます。その端材を眺めていると、いい品質の紙なのになんだかもったいないな、と思いつつこれまでは特にこれと言った再利用方法を見出せないままでした。

そこで今回、京都の事業共創会社の80& Companyとタッグを組んで、改めてちゃんと考えてみることにしました。あれやこれやと思案しているなかで出てきたのが「アロマディフューザーの挿木(リード)に使う」というアイデアです。

80& Company

パートナー企業と大義ある事業を共創することで、
人と事業のポテンシャルが発揮された活気ある世の中を創ることを目指しています。

80and.co


リードにマットを使ったら
どんなことが起こるんだろう?

このアイデアの一番おもしろいところはズバリ「マットなら自由な形のリードが作れる」ということだと思っています。アロマディフューザーのリードにはたいてい木の棒が使われています。でも、マットなら専用のカッティングマシーンでデザインデータを入力してカットするので木の棒と同じ性能ながら「自由な形のリードを作ることができる!」 そう…もうこの時点でワクワクが止まらない!そんな気持ちを出発地点に、このプロジェクトがスタートしました。

例えばこんな形にも切れたり…


どんな名前にしよう?

画箋堂は画材屋、芸術・美術に関する道具を扱っているお店です。と同時に、たくさんのアーティストや作家から初めて絵を描く人まで、芸術・美術に関わるいろんな人と向き合ってきました。これからも芸術・美術を好きでいてほしい。そして「画材屋発信のアロマ」ということで、これまで芸術・美術に興味がなかった人にも好きになってもらえるきっかけになれたら。そんな想いをこめて「art」という言葉を入れることにしました。

画箋堂のコンテンツには、オンラインショップ「materie(マテリエ)」や、運営している美術教室「creer(クレエ)」など、フランス語を使っているものがあります。その理由には、1913年の創業当時から芸術・美術を学びにフランスに留学する画家・作家が多く、画箋堂もそうした画家・作家との交流が多かったことが発端となっています。その流れを汲んで、フランス語で香りを意味する「arome(アロメ)」を「art」を合体させて「artme(アトメ)」という名前にすることにしました。


どんなリードにしよう?

さて、ここからいよいよ具体的にどんな形にしていくのかを考えるターンです。まずはマットで作るリードのデザイン。少し話は変わりますが、画箋堂は創業から変わらず、ずっと芸大生・美大生と深い関わりを持っています。たくさんのクリエイターの学生時代を支えてきました。今も学生が主体となって開催している「アートフェスティバルBORDER!」と共同で主催するほどです。そこで…今回のリードのデザインを学生コンペで決めることにしました。

募集をしてみたところ多数のご応募がありました。ご応募いただいたみなさん、ほんとうにありがとうございました!素敵な作品がたくさん届いたのでとても悩みましたのですが、今回採用させていただいたのは 京都美術工芸大学 4回生(2022年度)の吉田 百花さんの作品です。古典紋様の「立涌(たてわく)」をモチーフにしたデザイン。立涌紋様は、蒸気や煙がゆらゆらと立ち昇っていく様子を表した紋様、気運の上昇を表した縁起柄。artmeのコンセプトにぴったりくるデザインです。

吉田さんのデザインを採用するにあたって、画箋堂社内にて、ささやかながら授賞式を行わせていただきました。その時に「どんな感じでアイデアが生まれてきたのか」や「デザインのコンセプトについて」など詳しくお聞することができましたので、以下に少しだけインタビュー形式でお届けします。

 


受賞者へのインタビュー

左)画箋堂 山本 右)受賞者の吉田さん

応募のきっかけはなんでしたか?

吉田

Twitterで知りました。これまでもいろんなコンペに応募していて、採用されることもあったんですが、自分が学生時代をすごしている京都のコンペで、しかも普段から利用している画箋堂さんのっていうこともあって「これはやるしかないだろう!よしやってみよう!」という気持ちになりました。

どんなシチュエーションで
アイデアが浮かんだんですか?

吉田

もともと大学の授業で古典紋様について学んでいて、その時から立涌紋様はシンプルだけどモダンな印象があって好きでした。でも決定的だったのは、アルバイトでポテトを揚げてる時、ふわっと匂いが立ち上がるのがインスピレーションになって「よし、立涌紋様にしよう!」ってなりました 笑

アロマ、香り、ポテト…
あっ立涌!みたいな 笑

吉田

そうです、まさにそんな感じ! あとは、自分でもよく部屋をアロマやお香で気に入った香りにするのが好きなので「こんな形のがあったらいいな」という感じで、どんどんデザインしていきました。香りって目に見えないからこそ、デザインのしがいがあるなって思っています。そんな気持ちもあって良いアイデアにまとめられたと思います。

なるほど!そうだったんですね。
どんなところに置いてもらえたら
嬉しいですか?

吉田

私自身、寝る時に気に入ってる匂いじゃないと寝れなくて。artmeのシリーズも落ち着いた香りなので、そうしたところで使ってもらえると嬉しいです。これは丁寧な暮らしを実現するためのアイテムなんじゃないかな。私は香りでそんな気持ちになるので、そう思っています!


どんなボトルにしよう?

アロマオイルを入れるボトルも自分たちらしく作りたい。画箋堂は京都 河原町五条で創業して以来ずっとこの場所でお客様のと向き合ってきました。そんな思いから、artmeのボトルは京都 清水焼の陶器で作ることに。製作をお願いしたのは京焼・清水焼 陶謙窯が展開しているブランドfuuuさん。fuuuさんは京焼 清水焼の伝統守りつつ価値観をリファインすることで現代の生活・社会・地域に寄り添った器づくりを目指しておられます。artmeのブランドコンセプトとおどろくほどぴったり。もう他には考えられません!

画箋堂にとっても陶器には少なからず馴染みが。画箋堂は画材屋ではありますが学校向けに陶土を販売していたり、運営している美術教室クレエの中に昔は陶芸教室があったりしました。(※現在は陶芸教室はおこなっていません) そんなこともあって「いつかはマットのリードのデザインが全部見えるガラスのボトルなんかも展開してみたいな…」という野望も抱きつつ、artme最初のボトルには陶器製のものを採用することに。リードとのバランスを考えた形状で、アロマオイルを3か月分ほど(約150ml)いれられるサイズに仕上げました。

fuuu

京焼 清水焼の伝統守りつつ価値観をリファインすることで
現代の生活・社会・地域に寄り添った器づくりを目指しています。

fuuu-utsuwa.jp


どんな香りにしよう?

画箋堂のある京都。京都は歴史ある街並みで知られていますが、じつは街から少し離れた場所では、そのほとんどを森林地帯です。そんな京都の自然からヒントを経て、「金木犀(きんもくせい)」「黒文字(くろもじ)」「菫(すみれ)」の3種類の香りを揃えることにしました。「金木犀」には柚子を、「黒文字」には黒文字を、「菫」には杉をアクセントとして加えています。日常生活でも、美術館やギャラリーのようなアートシーンでも馴染む香りになるように自然由来の成分を調合しました。

KINMOKUSEI(金木犀)
秋の心地よい風に乗って運ばれる、金木犀の花の甘く華やかな香りを表現しました。 優雅な金木犀の香りに柔らかなジャスミン、ローズを重ねたフローラルブーケの香りを軸に、オレンジやピーチの瑞々しくフレッシュなフルーティノートを合わせ、ムスクとイリスで全体を優しくまとめた、ふわりと香る金木犀の香りです。 香調 【フルーティフローラル】 トップノート:オレンジ、ピーチ、ネロリ、柚子
ミドルノート:オスマンサス、ジャスミン、ローズ
ラストノート:ムスク、イリス
KUROMOJI(黒文字)
澄んだ空気を感じながら、早朝の静かな森をゆっくりと散策しているような、黒文字の凛とした香りを表現しました。甘さを抑えたドライなウッディノートを中心に、ローズマリーなどのハーブ、針葉樹のグリーンアクセント、シトラスの爽やかさを加え、ホワイトムスクが全体を霧のように包む個性的な香りです。 香調 【ハーバルウッディ】 トップノート:ハーバル、パインニードル、シトラス
ミドルノート:クロモジ、シダーウッド
ラストノート:ウッディ、ムスク
SUMIRE(菫)
穏やかな春の野山に慎ましやかに咲く菫の、上品で可愛らしさのある香りを表現しました。爽やかなリーフグリーンと明るいりんごの香りに続いて、菫とイリスが織りなすやわらかなグリーンフローラルノートが広がり、なめらかなピーチやムスクにゆっくり溶け込んでいくような、穏やかで優しい香りです。 香調 【グリーンフローラル】 トップノート:リーフィーグリーン、アップル
ミドルノート:バイオレット、イリス、北山杉
ラストノート:ピーチ、アンバー、ムスク

見せるアートから、香るアートへ。

artmeはSDGsの活動としてスタートしました。そこから何度もアイデアを練り、本来の額装マット紙の機能から少し見方を変えたことで、artmeは新しいプロダクトとしての可能性を実現しているのでは…と思っています。見せるアートから、香るアートにその価値を広げる。そんな発想でいられたら、マットをはじめ他の素材にもまだまだポテンシャルがあるのでは…なんて考えつつも、まずは気楽に楽しんでもらえたら。artmeは普段の暮らしの中のリラックス・リフレッシュタイムを「香り」だけではなく、「視覚」でも深く感じとってほしい、アートな気持ちになってほしいと思って作ったプロダクトです。どんな絵のためにくりぬかれた額装マット紙なのか、と想いながらお使いいただけると幸いです。

カット面を40度にして立涌の輪郭が立体的に際立つように

SDGsへの取り組み本来であれば捨ててしまうはずの「まだ使える」端材をアップサイクルすることで、ごみの消費量を減らし、持続可能な社会を目指すことを目的としたプロジェクト。


  • G-LAB No:003 アートの余白が香りをまとい生まれ変わる
    アロマディフューザー artme(アトメ)
    画箋堂オリジナルグッズ
  • 発売元:有限会社 画箋堂
  • プロダクトデザイン:80& Company
  • リードのデザイン:吉田 百花
  • 器のデザイン:fuuu


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